ラジオキットの修理
ここでは古いラジオの組み立てキットのレストアを紹介します。対象物が少々古い、と言う
だけで、ちっともスチームパンクでは無いのですが、当ホームページのカテゴリを見渡すと、
最も違和感が無いのがスチームパンクの様な気がしましたので、とりあえずここにしました。
GROWN 2バンドスーパー FR-55
主催者は以前、STARのSR-100Kと言うラジオキットを持っていました。STAR、スターと言う
メーカーはトリオ(現ケンウッド)と並び、ラジオ用のコイルで有名なメーカーで、自社の
コイルを使った受信機のキットを販売していました。SR-100Kの発売はかなり古く、1960年代
にはすでにあった様です。1979年ごろ松下電器(現パナソニック)が真空管の製造をやめると、
アルプスもエアバリコンの製造を中止、ほぼ同時にコイル類も姿を消し、並3とか5球スーパー
のキットが一気にキットメーカーのカタログから消えました。SR-100Kも1978年ごろまでは普通
に入手可能でした。SR-100Kは中波、短波の2バンドで、構成は4球スーパーです。真空管ラジオ
と言うと普通は5球スーパーですが、整流管をダイオードにして4球構成になっています。キット
は普通に完成して鳴るようになりましたが、トラッキングは最後までうまく出来ませんでした。
トラッキングとはダイヤル目盛りと受信周波数を合わせる事なのですが、何度やってもうまく
出来ないので配線を変更したり部品を変えたりしてました。調整用トリマーコンデンサはネジ
の締めすぎで痛んできました。その内に飽きてきてほったらかしに。その後SR-100Kは友人が
欲しいと言うのであげてしまいましたが、バリコンとコイルは外してありました。バリコンは
軸が2重構造の特殊な物で、それ単体で微動機構があるバーニアバリコンと呼ばれる物でした
し、コイルは当時でもあまり目にする事の無かったハイインピーダンス型だったためです。
その後このパーツを利用してSR-100Kを再現してはどうかと考える様になってきました。他の
電子パーツは手持ちの部品でほぼ揃います。ただ部品を並べるシャーシーと、前面パネル等
の外装パーツは作らねばなりません。オークション等でSR-100Kのジャンクが入手できれば
楽ですが、滅多に見ませんし、出品されても価格が高騰して手が出ません。
そんな中、オークションで妙にSR-100Kそっくりなラジオを発見!若干デザインは異なります
が、はっきり言ってパクリです。それが今回のGROWN FR-55でした。商品の説明によると
中波はノイズのみ聞こえ、短波はノイズすら聞こえないとの事ですが、一から作り直すのが
目的なので問題なしです。シャーシー内部の写真が無かったためか、競合も殆ど無く落札。
入手して中を覗いて見ると、短波はコイルが付いていなかった。これではウンともスンとも言
わないはすだ。とりあえず他の主要パーツは全て付いていて一安心。しかし気になったのが
バリコン。バーニアバリコンではなく、普通の物が減速なしの軸直結でノブに繋がっていた。
ううむ。5球スーパー末期のキットはみんなこの様な構造だったので、特に変と言うわけでは
無いが、短波の同調はこれではきつい。短波の受信はオマケ程度だったのかも知れない。
しかしこのキットにはSR-100Kよりもいい所が結構あります。まず部品の配置がSR-100Kより
いい。それから整流管を使った正統派5球スーパー。あと、真空管が増えた分ケースの横幅は
SR-100Kよりも少し長いが、全体的にはほぼ限界まで小さく設計されています。
さて、早速レストアです。シャーシーはクロメート処理されていましたが、かなり変色してい
たので思い切って塗装します。今回は青色にしました。コイルとバリコンはSR-100Kの物があ
りますから移植します。抵抗類は昔にならって、L型巻線抵抗をチョイス。一方コンデンサ類
は経年変化で劣化してしまう部品なので昔の物をそのまま使う訳にはいきませんから、こちら
は現代のMFコンデンサと電解コンデンサを使います。ただし同調回路は昔ながらの四角いマイ
カコンデンサーとパッティングコンデンサーを使って雰囲気を再現します。先ほど限界まで小
さく設計されていると書きましたが、シャーシーの高さも3㎝(内寸は更に狭い)ほどしか無く、
部品の取付けをうまくして低く収めないと、後で付ける底板に当たってしまいます。
組み立てが完了しました。過去に苦労したトラッキングも、今回はほぼぴったりに合わせる事
が出来ました。しかし!ラジオの底板(金属製)を取り付けると、周波数がずれる事が判明!
仕方なく、その分だけずらして再度合わせます。その後は快調に受信できていますが、30分ぐ
らい動作させると電源トランスがかなり熱くなります。高温になっても特に異常は無い様ですが
すぐ側にある電解コンデンサ(ブロックコン)も輻射熱で高温になるのは好ましくありません。
更に出力管もすぐ横にあり、ダブルであぶっている様なものです。そこでブロックコン保護用に
遮蔽板を取り付けました。ついでに同調指示管(マジックアイ)のテストが出来る様に接続端子
も増設。トランスが高温になるのは出力電流に余裕が無いためと思われるのに、更に電流を
取ってどうする?と言う感じはしますが、まあテスト用で常用はしないと言う事で付けました。
後は本体後ろの蓋が無いので何とかしたいのと、アンテナ端子に線を這わすのが面倒なので
ロッドアンテナも取付けたいのですが、あまり余計な穴を開けたくないのでどうするか思案中。
完成しました。後で調べたら分かったのですが、GROWNは富士製作所、富士製作所はスター
と言うことらしく、要は同一の会社だったのです。SR-100Kとは兄弟の様なもので、結局パクリ
では無かったのでした。なお、今回入手してから完成までにかかった日数は5日間でした。
ホーマー 2トランジスターラジオ 2T-100
昔の少年誌の通販とかおもちゃ屋の片隅によくあった、ホーマー(共和社)のラジオです。
このラジオは主催者が学生のころ、友人が「修学旅行に持っていくので組み立ててくれ」と
言って持ってきたラジオと同じ型の物です。その時に組み立てるのに何時間ぐらいかかる?
と聞いてきたので、「まあ、20分ぐらいだろ」と適当に返事をしたのですが、実際には2時間
以上かかってしまいました。そんなナツカシのラジオのジャンクを入手しましたので、今回
なるべくオリジナルに近づける方向でレストアをしてみます。
ラジオは元箱付きで美品なのですが、殆どのパーツが抜き取られています。しかし一番の
キモとなるプリント基板とバリコン、コイルが付いています。ホーマーのラジオはバリコン
などに小型特注?の物がよく使われており、代用品ではケースに収まらない事があるので
す。まあそれ以外にも不足する部品は自分で用意する必要がありますが、部品表とか回路図
はあるだろうし、プリント基板を参考にすれば何とかなるだろう、と思っていました。
しかし付属の取説を見てみると、部品表も回路図も載っていません。それならばとネット検索で
調べてみましたが、こちらもちっともヒットしません。しょうがないのでもう適当に判断します。
下の写真左が集めた部品です。トランジスタはたまたまあったゲルマタイプの2SA101を使用。
半固定ボリュームが見えますが、最もいい抵抗値を探って後で固定抵抗にするための物です。
写真右はΦ2.5mmのイヤホンジャック。本来スピーカーとの切り替えに使う接点を電源スイッチ
として使用するため、金具を曲げています。この型のジャックも今ではあまり見ないタイプです。
早速組み立てに入りますが、部品が使えるのかどうか分かりませんから、そのつどテストしな
がら組み立てます。下の写真左は付属していたコイルとバリコンでゲルマラジオを作り、部品
として機能しているか確認しています。外部アンテナは電灯線アンテナを使用しました。電灯線
アンテナのせいか一局だけ、しかも変な周波数位置でしたが、とりあえず受信はしました。
右の写真はさらに進み、一石レフレックスとして動作させてみたところ。これで動作すれば後は
低周波アンプのみになりますが・・・。音がちっとも聞こえません。回路をチェックしますが、特に
間違えた部分もありません。そこでゲルマラジオの時の電灯線アンテナをコンセントから抜くと
いきなりうるさいほど鳴り出しました。なーんやこんな事か!と思い、低周波アンプ部に入ります。
レフレックス部はどのラジオでもほぼ同じ構造ですからいいのですが、低周波部がよく分かり
ません。ネットで未組み立てのキット画像(後期型)を発見したのですが、それによると電解コ
ンデンサとか結構多くの部品が付属しており、これらをどこに使うのかよく分からないのです。
プリント基板も穴は開いている物の、パターン配線がない部分が多く余計に謎になっています。
基板裏面に付ける事も考えられますから、後は動作させて適当に付ける場所を判断します。
さて、その後ネットで2T-100の初期型の完成品の写真も見る事が出来ました。初期型の実装部品
を見ると、出力トランスのそばに何やら大きなセラミックコンデンサが付いているのですが、
これの接続場所が分かりません。検波後の結合か?とも思ったのですが、検波後の出力は電解
コンデンサで低周波部と結合するのが一般的です。そこでとりあえず電解コンデンサで音が鳴る
のを確認してから、思い切ってセラミックコンデンサ(0.047μF)に交換してみました。結果は
電解コンデンサ時と全く変わらず。容量は100分の1だが・・。とりあえず鳴ったので、もうこの
ままいきます。あと表面に実装する場所の無いパーツは全て省略。まあ、最初部品集めの参考に
したのがシリコン化された後期型だったし、昔のキットは使用しないパーツ(選択パーツ)とか
結構あった気がするので、これでヨシと言う事にします。下の写真が完成した基板です。
ここで最後の動作確認をしますが・・・。ん!聞こえないぞ。
どうもこのラジオは電源を入れてから音量が増えるまでに1分ぐらいかかるっぽい。また、
電波状況で音量がずいぶん変わる様で、ある地点ではガンガン鳴るが、ちょっと移動とか
するとガラッと音量が減少する。とりあえず主催者の家では外部アンテナ(ロッドアンテナ)
は必携で、バーアンテナだけでの受信は無理でした。また、このラジオは2石レフレックスと
言う事で初心者向けの様な気がしますが、実際には小さすぎて基板は狭いし、シルク印刷
も無いのでパーツ実装も間違いやすい。電池を繋げた後にうまく本体に収めるのもコツが
いる有り様なので、真のユーザーは初心者では無く、ちっこいラジオマニア?と思います。
下は今回の回路図と実体図です。トランジスタの型を含め、オリジナルと同じかどうかは
分かりません。なお、学生のときに組んだ説明書には感度を上げるための再生のかけ方が
載っていました。たぶんですが、一段目のトランジスタのコレクタからリード線を出して、
同調コイルに沿わすと言うものだったと思います。当時やったところ感度の上昇が見られ
ました。今回はやっていませんが。
レストアが完了しました。主催者の環境ではどこでもガンガン鳴るというわけにはいきませ
んが、環境が良いところではうるさくて困るほど鳴るラジオです。うるさいときには同調を
ずらして対応します。取説にはイヤホンに栓をしろとあって笑えます。このラジオもデザイン
が良い(特にロッドアンテナを付けた時)ので気に入っています。レストア期間は3日でした。
なお、この手のレフレックスラジオの製作のポイントは部品にあります。特に重要なのが
一段目のトランジスタのコレクタに入る高周波チョーク。これが悪いとさっぱり性能は上がり
ません。必ずレフレックス用に作られた物を使用するのがポイント。ただレフレックス用でも
中華製はダメでした。その時は電源電圧が0.5V程度と低電圧タイプのレフレックスラジオでの
実験なので、今回の様な9Vタイプに当てはまるかどうかは分からないのですが。
レストアが完了した次の日、なんとホーマー2T-100のキット写真が出てきました・・。出て
くるのがおせーよ!しかもゲルマ時代の物です。ネットで見たシリコン化された時代の物と
は明らかにパーツ数が違います。写真を見ると、結合用の大きなセラミックは0.1μFの様で
す。トランジスタも外形サイズが異なるので、1段目と2段目は別物と思われます。
その後ゲルマ時代の2T-100の現物を見る機会がありました。気になっていた使用トランジス
タは一段目(レフレックス用)が2SA100、2段目(低周波用)が2SB176でした。知ったから
にはオリジナルに戻します。ついでに再生もかけてみます。結果は・・・。物凄く感度が上
がった。ロッドアンテナは完全に不要、以前から聞こえる局はうるさすぎるので同調をずら
して音量調節をするのは必須。ロッドアンテナを付けると大阪の局が聞こえた(当方三重県
在住)。何なんだろうこの感度の高さは・・・。たった2石なのに・・・。調べたところ2SA
101より2SA100の方がhfeは高い様だ。昔のトランジスタのhfeなんていい加減らしいので、特
にhfeが高いものに当たったのかも知れない。それから上に書いた1分ぐらいして音量が上がる
と言う件も無くなり、最初から高感度になりました。
ラジオキットの修理 トップ